「骨盤の歪み」といわれる現象には、ある法則性があります。
骨盤の「閉まり」「開き」ということについてよく質問を受けるのですが、簡単に言うと、「閉まり」と言われている現象はほとんどが右で起こります。
「開き」といわれる現象は左で起こります。
(例外はありますが、今回はそれについては言及しません。)
右側は内側に移動しやすく、そして前方に出るようになります。
左は外に開きやすく、後方に下がるようになります。
つまり、骨盤は右前、左後ろに捻れた形になることが多い、というわけです。
よくある検査法で、仰向けに寝た時に、骨盤の出っ張っている骨(腸骨)の左右の高さを比べる、というものがあります。
多くの場合は右のほうが高く、そして内側に位置しているはずです。
それで、「右の骨盤が締まっている」と判断されます。
その分、左の骨盤は右に比べて低く、そして外側に位置していることになります。
これを「左の骨盤が開いている」と判断するケースもあります。
そうなると、結局どっちなのか?という疑問が生じてくることになります。
おそらく多くの人は、「どっちのほうが気になったか」で右の閉まりが異常なのか、左の閉まりが異常なのか、を判断しているのだと思います。
体の正中線との距離から比べて、どっちの方が遠いか、近いか・・・という判断方法もあるでしょう。
あとはヘソの位置を基準にして、右の骨盤のほうがズレているのか、あるいは左か・・・とか。
しかし、ほとんどの場合、こういう歪みが骨盤に生じている以上、もう既に正中線とかヘソの位置もズレているのです。
というよりも、そもそもこのような骨盤の歪みは、本当は骨盤の歪みではないのです。
結果的に骨盤がそのような歪んだ位置に追いやられているだけであって、その歪みは別のところで起こっています。
だから、仰向けで腸骨の高さを比べても、あるいは足の長さや足の向きを比べても、歪みの本当の原因というものはサッパリ見えてこないのです。
そして、骨盤の歪みを治そうとして、骨盤にベルトを巻いて矯正したり、開いている側を内に押し込んだりしても治らないのです。
特に足の向きなどは、体全体の重心とか、あとは股関節の力の入り具合などの条件もありますから、実際には足の向き=骨盤の状態として判断するのは危険です。
足先が外に開いているからといって、骨盤が開いていると判断するのはあまりに軽卒すぎるのです。
では、そのような骨盤の捻れ、歪みがどうして発生するのかというと、直接的な原因は背骨(主に腰椎)の捻れです。
しかし腰椎の捻れも、それは腰椎部が単独に捻れるわけではなくて、もっといろんな箇所に起こった不調和の蓄積によって起こるものです。
このことは何度か書いているので省略しますが、とにかく骨盤という一カ所の歪みを見るにしても、そこに至るまでの流れを読んでいくのが本当のところです。
ただ、お腹というのはそれらを比較的全体的に表している場所ではあります。
印象としては、全体的すぎて詳細を読みづらい点がないわけでもないのですが、でも逆に言えば、お腹をみていけばおおよその見当がつきます。
そして、そのお腹へのアプローチが一番適用範囲が広いという傾向があります。
なので、初心者の人とか、一般の人でも割と安心してアプローチしていけるのです。
簡単に言うと、右の閉まりが強い人は右のお腹、左の開きが強い人は左のお腹と連動しています。
そして、右と左ではその原因が違い、表れやすい身体的特徴(なりやすい病気の傾向など)と、心理的傾向(感受性の特徴)も違います。
一般的には「骨盤の歪み」と「お腹」が、このように密接に結びついている、という認識はないと思います。
しかし考えてみると、骨盤のすぐ上はお腹ですから、結びつかないはずがないのです。
実際、お腹をうまく整えていくと、骨盤の位置以上にまで変化が起こってきます。
とにかくヘソを中心にして、お腹は人の体の中心部なわけですから、実はお腹の観察・調整というのは、その人の中心部の観察・調整という、非常に重要なものなのです。
少々専門的な話になりましたが、ともかく「歪み」というものは部分的に起こるものではなく、様々な要素が関連しあって、どこかに表面的に現れているもの、ということが言えます。
そして、骨盤の骨のつなぎ目というのは、他の関節と違い、ほとんど可動性がなく、簡単に歪むものではありません。
体の歪みが骨盤から起こるというケースは、ほとんどないと言っていいでしょう。
いずれにせよ、歪みを修正していくにあたっては、その表面的な見た目の歪みだけではなく、背景をたどっていかなければなりません。